危機の震源地アメリカ経済の底打ち 回復の鍵は個人消費
危機の震源地アメリカでは、リーマンショック以降、株式もドルも売られる「アメリカ」売りに見舞われました。2009年に入ってその状況からは脱し、市場は多少の回復を見せてはいるものの、実体経済の回復は遅れているのが現状です。リーマンショックから1年を迎えたオバマ大統領は先日、「過去2年間の嵐は収まりつつある」と演説で述べましたが、収まった嵐を成長の風に変えるには、個人消費の回復と企業の投資回復を促す環境整備が不可欠です。
関連記事&グラフ
株も通貨も売られた危機の震源地アメリカ
金融危機の震源地アメリカでは、リーマンショックを一つの契機に、株も通貨も大きく売られて行きました。ダウ工業株30種平均はリーマン破綻を受けた9月15日に500ドル以上の下げを記録したほか、金融安定化法案が下院で否決された9月29日には777.68ドル安と史上最大の下落を記録するなどパニックとも言える状態に陥りました。リーマンショックまでは最後の砦と考えられていた巨大金融機関に対する政府の支援が、リーマン・ブラザーズの破綻を目にして場合によっては無いものと分かり、同時に直後にAIGは救済するなど政府の救済基準も不明確な点が多かったため、市場参加者は金融危機の長期化を恐れて疑心暗鬼になっていたのでしょう。
またドルも広く売られ、12月には円相場が1ドル87円台前半を記録し、13年5ヶ月ぶりの円高水準となるなど、「アメリカ売り」が進みました。
2009年に入って底打ちが見えてきたとは言え、実体経済の回復は想像以上にペースが遅く、先行きに関してはなかなか見通しがつかないのが現状です。
関連記事&グラフ
待たれるプラス成長への回帰
アメリカのGDP成長率は、2008年の第1四半期にITバブル崩壊以来のマイナス成長に転じたのち、同第3四半期以来、4四半期連続の前期比マイナス成長となっています。
近年のアメリカ経済の成長の原動力は、何といっても個人消費でした。値上がりを続ける住宅価格を背景に個人が多額の借金をしそれを消費に回すというダイナミズムが、アメリカ国内のみならず日本や中国を初めとする輸出国を潤してきたとも言えますが、サブプライム問題の顕現化で住宅バブルがはじけたことでこの仕組みが機能しなくなった訳です。GDPに対する個人消費の寄与度を見ると、2008年第3四半期に大きく落ち込んでおり、今回の危機の深刻さを物語っています。また、企業の設備投資も2008年第4四半期から大きく落ち込んだままであることも気がかりです。
現在は官需と外需で、マイナスのインパクトを抑えている状態ですが、これはアメリカ本来の姿ではありません。何よりも個人消費の回復が、今後の景気回復の鍵を握ることになりそうです。
回復しない輸出 低迷が続く内需
前のグラフではGDPの減速を少しでも補っているようにすら見えたアメリカの純輸出ですが、貿易統計の数字を見ると全く楽観できないことが一目瞭然です。輸出額は2008年8月までは前年同期比10%程度の成長を保っていたものの、リーマンショック後は大幅に下落しています。「たまたま輸入額の落ち込みが輸出額の減少より大きかったから」という理由で、ネットの純輸出の寄与度が見かけ上、引き上げられたにすぎません。
落ち込み幅は、実は日本より緩やかなものの、回復の兆しは日本以上に見えてこないのが実情です。新生GM、クライスラーを始めとする自動車産業や787の納入が大幅に遅れているボーイング等、アメリカ基幹製造業の復活が待たれるところです。特に自動車産業は部品メーカーも含め雇用への影響も大きく、輸出額だけでなく個人消費回復への大きな要素でもあります。
輸出入が為替に与える影響について、決済のメカニズムからいえば、輸出額の減少はドル安、輸入額の減少はドル高要因となりますが、現状は輸出入いずれも減少しており、しかも輸入の減少はアメリカ内需の減少によるものであるため、いずれにしても為替はドル安、というのがアメリカだけでの理屈となります。ただ、今回のリーマンショックは、他の主要国への影響も甚大なため、今後のドル相場がどうなるかは不透明な状況が続きます。
効き目溢れる政策の一方、その反動に注意!
個人消費の中で大きな割合を占めるのが、自動車と住宅の購入なのはどこの国でも同じです。このグラフを見ると、アメリカの政策効果の大きさに感嘆します。自動車販売台数が、エコカー補助金が有効であった2009年7月以降大幅に回復しており、8月には21週間連続のマイナス成長から、プラス成長へと転じました。ただ、米Big3はもともとピックアップトラックや大型SUV等の大型車に強く、小型車やエコカーは日系・韓国系のシェアが大きいので、自動車販売台数の好転が自動車メーカーの業績回復に直結するかどうかは疑問です。フィアットと提携したクライスラーが、果たして売れる小型車を作れるのか等、米Big3の変化にも注目したいところです。また、政策効果の大きさを実感できるだけに、来月の数字にその反動が出てくるのか、注意深く確認してみたいと思います。
次に、住宅市場は、回復に向けた推進力不足が未だに否めない状況が続いています。ここでは中古住宅の在庫率に注目すべきですが、これが現状まだ9〜10ヶ月くらいの水準とのこと。もう2〜3ヶ月分くらい落ちたところで、住宅の回復が見られるか、期待して見て行きたいと思います。
攻めに転じる金融の勝ち組
アメリカ経済は、全般的に見るとまだ本格回復とは言えないものの、個別企業ベースでは既に強い回復を遂げ、攻めに転じている企業も見られるのが、「さすがアメリカ」と言えます。特にサブプライムローン関連損失を総額1兆ドル以上計上した金融業界で、勝ち組が既に攻めの動きを始めているのが印象的です。
グラフで確認できるゴールドマン・サックス(【1】のグラフ)、バンク・オブ・アメリカ(グラフ右下の【2】をクリック!)の業績を見ると、2008年第4四半期こそ両社赤字に陥りましたが、その後は回復、ゴールドマンに至っては、2009年第2四半期に最終利益が過去最高の34.35億ドルとなるなど、その強さは際立ちます。なお、ゴールドマンは、決算発表前の6月に100億ドルの公的資金を完済、今回利益のうちの約66億ドルを内部留保し、年末のボーナスに向けて準備を始めているようです。一方のガイトナー米財務長官は、報酬規制に関して年内の基準作りに注力しているようで、この問題の進展にも注目が集まります。
この報酬規制をはじめとして、G20等の場でも金融業界への規制の話ばかりが先行している昨今ですが、次なる危機回避のための規制・監視強化は不可欠な一方で、この攻めに転じる(=リスクを取る)活力を削がないための配慮も、同時に必要なように思えます。






